融人の組織
ここでは『ガイアケアTRPG』の世界に存在する勢力の中でも、融人を主体とする組織を紹介する。
ここでは『ガイアケアTRPG』の世界に存在する勢力の中でも、融人を主体とする組織を紹介する。
極東曲馬団は団員全てが融人で構成されたサーカス団である。
団員が全て融人で構成されたサーカス団。常人には不可能なほど危険で派手な演目をこなす。
しばしばやりすぎだと強い批判を受けるが、団員の適性に応じた十分な危機管理ができていると団長はコメントしている。
団員たちは融人の中でトップクラスに収入が高く、一部の融人たちの憧れの的となっている。
東京都の湾岸エリアに劇場を持ち、本部公演は週に2回行っている。一方は人気の定番演目を行う常設公演、もう一方は期間限定の演目を行う特別公演である。
このほかにも地方公演を行っており、公演回数は特別公演の盛況具合によって変化する。
最も盛況なのは、人気パフォーマーである『一ノ瀬 鳴海』が出演する鳥組の常設公演であり、1年前から予約申し込みをしなければ抽選すら受けられない。次点で、新人団員のお披露目となる期間限定演目が人気で、事前に公表される新人団員の期待値次第では、常設公演の当選倍率を超えることもあるようだ。
所属する融人の原種により「鳥組」「花組」「獣組」「虫組」「裏組」に別れている。
ヘビクイワシの越境者が指揮する一団。エアリアルアクトを得意とする。
リーダーの一ノ瀬はリングマスターも務めている。クジャク、ゴクラクチョウ、ハチドリなどが所属。
モルフォチョウの亜獣が指揮する一団。アクロバティックアクトを得意とする。同サーカス内で最も多くの団員を抱えており、新人研修なども担当している。ハナカマキリ、ホタル、ニジイロクワガタなどが所属。
ラフレシアの亜獣が指揮する一団。ダンスパフォーマンスを得意とする。メディア出演や、外部イベントでのゲスト参加が最も多く、広報・PRを担当している。バラ、ベニテングタケ、各種フルーツの亜獣が所属。
ボルゾイの亜獣が指揮する一団。アニマルアクトを得意とする。演目の際、原種の力を多用するため、逸脱する団員が最も多い。ライオン、ユキヒョウ、キンシコウなどが所属。
スモークマシーンの付喪が指揮するサポートスタッフの総称。元機材たちが演出し、元化粧道具たちが演者のメイクを施す。少人数の元治療道具なども控えている。
肥後 天満
心優しきサーカス団長。
極度の肥満体で上背が低いため、遠目には玉乗りの大玉と見分けがつかない。
50代前半の人間の男性。張り付けたような笑みを絶やさず、笑い方が非常に下卑ているため誤解を受けやすいが、繊細で優しい気質を持っている。
名門財閥の長男として生を受けた肥後は、幼少期より父の仕事に同行し、世界を飛び回っていた。イギリスの古物研究家から歴史を学び、中東の商人から経営論を叩き込まれ、アメリカの学舎で最新の思想に触れる。多様な価値観を有した彼は、同世代の誰よりも見識が広かった。祖父の同伴で赴いたドイツの会員制クラブで、見世物として奴隷のように扱われていた動物たちを目撃する。喜怒哀楽が表情に表れにくい動物たちが、衰弱し、歯を食いしばり耐えている様を初めて見たのだ。この体験は肥後の進路を決めるのに充分なものだった。
アメリカで動物行動学を学んだ肥後は、卒業後に動物中心のサーカス団『極東曲馬団』を立ち上げる。自然環境に戻れない保護動物を使った演目を行っていたが、とある年に動物たちが次々と融人化、サーカス団のあり様は大きく変わった。亜獣の高い身体能力や、越境者の特殊な能力を活用した激しい演目は爆発的な人気を呼び、今日の大盛況に至っている。
古株の団員たちは過激で危険なパフォーマンスを自主的に考案し、演目の質をあげるためには手段を選ばない。古株たちの「団長に恩返しをしたい」という高いモチベーションは、華やかな世界に憧れて入団した新人たちとの間に開きがあり、軋轢を生じさせている。もし融人が華やかさに釣られて極東曲馬団に入団したのなら、極端な上下関係と、厳しい出世競争の渦に飲み込まれることとなるだろう。
一ノ瀬 鳴海
最古参の団員であり、華麗なる花形。「魔性の男」の色気にあてられた熱狂的なファンは数多い。
外見年齢は30代前半、実年齢は5歳の男性で、ヘビクイワシの越境者。極東曲馬団の花形であり、団内で融人化した者たちの一人である。背が高く、細身でしなやかな体つきをしており、華やかさと妖しさを併せ持っている。
「魔性の男」は団長によるブランディングで、本人の気質は純朴である。ファンからの扱いに当惑しており、幾度となく売り出し方の再検討を求めている。演目は綱渡り・曲乗り・空中ブランコなど、エアリアルアクトの全てをこなす。
テーマパークで飼育されていたヘビクイワシだった一ノ瀬は、公演中の事故で翼が折れてしまい、殺処分の寸前で肥後に引き取られ、それ以降、公演に出演し続けている。
一ノ瀬が再び空を飛ぶことは叶わなかったが、肥後は「翼を広げるが飛ばずに歩いてくる」という行動をコントのように演出し、彼の名物芸とした。原種の頃より高度な知能を備えていた一ノ瀬は、それが肥後の愛護精神だと理解する。
とある年、左後ろ足を失ったボルゾイがサーカス団へやって来た。一ノ瀬は覚束ない足取りのボルゾイを気の毒に思い近寄るが、ボルゾイは彼の翼に噛みついてしまう。幸い、一ノ瀬は羽毛を数本むしられる程度で済んだが、異変は直後に起きる。一ノ瀬の羽毛を口にしたボルゾイの左後ろ足の根元の肉が盛り上がり、ゆっくりと再生し始めたのだ。
一ノ瀬が融人化してからも治癒の能力は健在だ。一ノ瀬の羽毛を経口摂取した者は異常な回復力を発揮する。肥後は彼の能力を初期団員たちと自分だけの秘密にしているが、当の一ノ瀬は傷ついた団員を癒している。身体の欠損に悩む者は、諦めずに回復手段を探し続けるべきだろう。いつか彼のような力を持つ者に出会える日が来るかもしれないからだ。
華路 希羅璃
極東曲馬団の誇り高き看板娘。
生まれついての亜獣であり、高慢な完璧主義者。
外見年齢、実年齢ともに20代後半の女性で、モルフォチョウの亜獣。妖艶かつ荘厳な雰囲気を纏い、シルクのような長い黒髪をなびかせている。
名実ともに極東曲馬団の看板娘であり、新人教育の責任者。彼女が新人教育者に抜擢されているのは、圧倒的なカリスマと支配力を持っているためだ。厳しく高慢な完璧主義者で、新人からは恐れられている。社交術に長けており、肥後の前では猫を被っているため、新人教育の苛烈さは気づかれていない。演目は、ハンド・トゥ・ハンド、アクロダンス、集団アクロなどのアクロバティックアクトの全てをこなす。
母親が同じくモルフォチョウの亜獣であり、華路は生まれたときから人間の姿である。
彼女のように人として育った融人は協調性が高い傾向にあり、華路の生い立ちにも特筆すべき点はあまりない。抜きんでて優れた容姿を持ち生まれた人間と変わることはなく、相応の自尊心を持っている。原種としての能力も「美しい翅を広げることができる」といった程度で、飛行はできない。彼女は融人としての力に頼ることなく現在の地位を勝ち取り、努力に裏打ちされた力と美しさに誇りを持っており、常に自らの価値を疑わない。
自他に求める基準は高く、妥協や甘えを許さない。華路に叱咤され、心が折れて団を去る者も多いが、その圧倒的な存在感に惹かれて人が集まるのもまた事実である。極東曲馬団の新人は、まずは彼女に認められるという高いハードルを越えなくてはならない。それが叶わない限り、ステージライトを浴びる日は訪れないだろう。
イワン・ヴォルコフ
古参団員であり、一ノ瀬 鳴海の弟分。無邪気で人懐っこい快活男子。
外見年齢は20代前半、実年齢4歳の男性で、ボルゾイの亜獣。逆立った白髪と笑顔から覗く八重歯が特徴的で、常に笑みを絶やさず声がデカい、快活な人物である。
一ノ瀬に次いで古参の団員で、獣組を率いているベテランパフォーマーである。犬の敏捷性を活かして走り回り、跳んで跳ねてを繰り返しても息一つ切らさない体力を持つ。メンバーからは、いつも元気で落ち込んでいるところを見たことが無いと言わしめるほどの明るさで、団員の誰に対してもわけへだてなく接している。彼のハイテンションは無作為に周囲へ放たれるため、落ち着きたい場合は距離を取るしかない。
イワンは、狩猟を趣味に持つロシアの資産家が、猟犬として飼っていたボルゾイの一頭であった。ある日、主人の狩猟に同行していたイワンは、仲間のボルゾイと連携が上手くいかず、オオカミと一対一になってしまったことで左後ろ足を負傷してしまう。当初はささいな噛み傷だと思われていたが、適切な治療が施されなかったことで細菌が入り込み、動物病院で診療した時点では切断以外の治療法がないほど悪化した状態になっていた。猟犬としての価値を失ったイワンは主人から見捨てられ、紆余曲折を経て肥後の元に迎えられることとなった。
イワンは、自身を引き取ってくれた肥後を父のように、左後ろ足を再生してくれた一ノ瀬を兄のように慕っている。公演を盛り上げるためなら自身の危険を厭わず、アドリブで無茶なパフォーマンスをすることが多く、それは他の団員にまで影響してしまっているようだ。獣組の団員は怪我が絶えず、練習中の死亡事故も起こっている。
Bremen Harmonix。
強大な力を持つ越境者で構成された脅威の集団。
人間を根絶し世界を融人のものにすることを目的にしている。
世界各国の超常的な力を使ったテロ事件や、容疑者不明の破壊行為の多くに彼らが関与していると言われており、社会に与えた損害は計り知れない。
組織を結成したのは、驚異的な特殊能力を持つ4人の越境者である。
融人化する以前、今ほど大きな力を持たなかった彼らは、あるものは虐げられ、あるものは残虐に弄ばれ、あるものは畏れられ、あるものは飢えていた。
彼らが越境者として人間の姿を得たとき、生来その身に備わっていた不可思議な能力は飛躍的に強まり、もはや災害と呼べる規模にまで拡張された。周囲の人間を皆殺しにした彼らは世界をめぐり、人類の醜悪な営みを目の当たりにする。人類への憎しみを募らせていった彼らは、惹かれ合うようにドイツで出会う。始めはルキウスとバーゲスト。次にコカトリス。最後にカシャ。4人で共に過ごすようになり、しばらく経ったある日に誰かが提案した。
「人類を根絶しよう」
この日より、彼らは『Bremen Harmonix』を名乗り、人類への復讐を開始した。
あまりにも強い力と強い憎しみを持つ4人の越境者を打倒する術は未だ見つかっていない。遠からぬ未来、人類は選択を迫られるだろう。彼らを鎮め、宥め、どうにか和解の道を歩むか。それとも彼らの憎しみに焼き尽くされ、滅亡するかである。
ルキウス
人類に破滅をもたらすべく暗躍するBremen Harmonixの首魁。
歩く災害であり、死と破壊をもたらすもの。
人間とロバの混血生物の越境者。
外見年齢は30代前半だが、実年齢は不詳の男性。飾り気は無いが上質な衣服に身を包む、堂々たる体格の美青年。端正な顔立ちをしているが、彼を目撃した人間は口を揃えて「どこかが決定的に歪んでいた」と証言する。
強大な力を持つ越境者はしばしば民話や伝承にその足跡を残しているが、ルキウスに関しては、歴史、伝説、神話の類が一切見つかっていない。ルキウスの足跡が記録されていないのは、目撃者が早々に命を落とすためである。目撃者の末期は様々で、その場でルキウスに殺害されることもあれば、どこかの街角で暴漢に刺されたり、奇妙な病気に罹患したり、あるいは突然姿をくらまして二度と見つからないこともある。
ルキウスとBremen Harmonixの存在が明るみに出たことで、世界中の事件・事故が再調査され、これまで無関係に思われていたいくつかの事件に関連性が見出されている。
ルキウスは、物静かで暴力を好まないといった普段の性格と、徹底的に敵対者を蹂躙・粛清する残忍さという際立った二面性を持っている。彼と相対した者は遠からず死を迎えるが、それまでの間、正体を知らずに友人として接している者もいるかもしれない。
組織の結成に居合わせた融人たちとは良好な関係を築いており、昔馴染みとして接しているようだ。彼は人情を理解し、協調性を持ち合わせている。仲間の危機にはその身を惜しまずに助力し、仲間の死には涙を流すだろう。
人の慈悲を携え、獣の如く殺戮する、ルキウスは人類滅亡の先触れである。
コカトリス・ナーガ
Bremen Harmonixの幹部にして、猛毒をまき散らすもの。ニワトリとヘビの混血生物である幻獣の越境者。
外見年齢は70代だが、実年齢は不詳の男性。スリーピーススーツを着こなし、老執事を思わせる上品な容姿をしている。顔は老人のそれだが、上半身は一見してわかるほどの強靭な筋肉に覆われており、鍛え抜かれた軍人のような迫力がある。
コカトリスは、Bremen Harmonixの結成に居合わせた越境者の一人である。毒と病魔を司り、視線を送るだけで病をばら撒き、吐く息は周囲を猛毒で侵す。しかし、彼がこの凶悪な能力を使用することはほとんどない。彼は怪物的な膂力を備えており肉弾戦を好む。普通の人間が彼の拳を頭部に受ければ、首から上がこの世から消えてしまうだろう。
コカトリスのルーツについて、彼に父親を殺された息子の証言がスコットランドヤードの調書に残されている。証言者曰く、コカトリスは黒魔術に傾倒していた父親が召喚した悪魔なのだという。証言者の父親は、私室に刻んだ魔法陣に、蛇、ヒキガエル、黒い雄鶏の血を捧げるという異常行動を9年間毎日欠かさず繰り返すという変質者だった。クリスマスの夜、証言者が父親の私室を訪れると、魔法陣の上で死体となった父親を見下ろす怪人が立っていた。証言者は、怪人と目があっただけで全身が石のように固まって動けなくなり、その隙に怪人は悠々と去っていったという。
コカトリスは、Bremen Harmonixの中で最も残虐であり、最も無慈悲である。彼の相手に選ばれた者は、会話の機会も与えられず、問答無用で殺害されることとなるだろう。コカトリスの毒牙から逃れるためには、彼よりも風上に居続け、視線から常に身を隠し、脚力で上回る他ない。
彼が冷静な状態であれば、これ以上執拗に追い回されることはないだろう。
もしコカトリスを怒らせてしまえば、彼の穏やかな表情は邪悪な笑みに変わる。背に生えた翼で空を飛ぶコカトリスに追い詰められた犠牲者は、強靭な蛇の尾で拘束され、全身に強烈な痒みが生じる神経毒を注入される。この毒に致死性は一切ないが、全身を襲う痒みは犠牲者が死ぬまで治まることはない。
コカトリスと遭遇し、逃走以外の方法で生還した者が一人だけ記録に残っている。中国南西部に住み、不治の病を患った男が、長年に渡りコカトリスと思しき者と共に暮らしていたと証言している。男は既に他界しており真相は不明のままだ。しかし、10歳時点で余命半年の宣告を受けた男は、72歳まで健康に生きた。彼は世界でただ一人、コカトリスを善人だと信じて生涯を終えた者かもしれない。
カシャ・キャスパリーグ
Bremen Harmonixの幹部にして、気まぐれなトリックスター。ネコと正体不明の地球外生命体との混血生物の越境者。
外見年齢は20代前半だが、実年齢は不詳の女性。猫のように尖った毛先が特徴的な赤橙色のミディアムヘアで、和装と洋装が入り混じる奇抜なファッションに身を包む。いつも唇の端を吊り上げるような笑みを浮かべており、見た者に奔放さと妖艶さを感じさせる。
Bremen Harmonixの結成に居合わせた越境者の一人であり、全ての猫の怪異は彼女が持つ無数の姿の一つともされる。水底から現れ、炎を操り、生者を地中に沈め、夜風と共に消えるなどその力は多岐にわたる。カシャは人間への憎悪は持ちながらも、人間が生み出す文化には強い興味を示しており、正体を隠して様々なコミュニティに潜り込んでいる。
彼女は融人となる以前から超常の力を大いに行使しており、世界各国に伝わる猫の怪物譚は彼女の足跡である。彼女が原種だったころの外見や能力は目撃者によって様々で、事件内容、規模、被害者、その全てに一貫性が無い。この様な一貫性のない伝承が彼女の足跡であると言われているのは、当人が気まぐれにあれは自身の行動だと人々に明かすからだ。
カシャはBremen Harmonixに所属する越境者たちの中で、遭遇した人間の生存率が最も高い存在であり、彼女と言葉を交わした経験がある者も多い。生還者の証言の中で最も注目すべきものは、彼女の最古の足跡についてだ。証言者曰く、カシャは人類誕生以前から生きており、還るべき故郷は地球外にあると漏らしていたという。
カシャと遭遇して生還した者は多いが、時おり見せる残忍さと狡猾さはBremen Harmonixの中でも際立っており、気まぐれに人間と関わり、気まぐれに人間を殺害する。
その正体を知ろうと知るまいと、彼女と長い付き合いを続けるのであれば、いずれ不可思議で恐ろしい事件に巻き込まれるだろう。
Bremen Harmonix創成の四人は、共通して名前に頓着がない。中でも飽きっぽく移ろいやすい彼女が自称する名は、出会うたびに変わっているかもしれない。
バーゲスト・ブラックドッグ
Bremen Harmonixの幹部にして怒れる番犬。イヌとクマとの混血生物の越境者。
外見年齢は10代後半だが、実年齢は不詳の男性。乱れた紺色の髪に、常に瞳孔が開いた獣のような目をしており、一見して彼の凶暴な性格を窺い知ることができる。
Bremen Harmonixの結成に居合わせた越境者の一人であり、ルキウスにとって最初の仲間でもある。
バーゲストの咆哮を三度聞いた者は、強い空腹感に襲われて身動きが取れなくなる。彼に影を踏まれた者は正気を失い、肉を摂取することを最優先に行動し始める。犠牲者はじきに見境なく肉を求め、様々な生物に襲い掛かるようになるだろう。
物理攻撃にも長けており、細身な身体に釣り合わない膂力で振るわれるかぎ爪は、人間程度であればたやすく両断するほどの威力を誇る。また、自身の首と胴を切り離すことが可能で、頭部は空中でも自在に動き、対象に食らいつく。バーゲストの命を完全に奪うのは不可能だとされている。彼の肉体は本人の意志によって非実体化することができ、どのような拘束からも逃れられる。
バーゲストは、ルキウスを含む幹部4人の中で最も強い憎悪を内に秘めている。バーゲストの原種は、カナダに住む登山家の主人に仕える忠実な番犬であった。
ある日、雪山へ狩猟に出かけた主人が雪崩に巻き込まれ、同行していたバーゲストと共に遭難する。僅かな食料と、偶然発見した鹿肉などで飢えをしのいでいたが、ついに主人はバーゲストの肉を欲して襲い掛かった。後に山岳救助隊に発見されたバーゲストの傍らには、主人の骨だけが残っていた。その後バーゲストはとある資産家によって引き取られる。この資産家は珍しい動植物を食すことが趣味で、引き取られた動物は彼の食卓に並ぶ運命にあった。しかしバーゲストが晩餐となるはずの日の前夜、資産家は突如体に変調をきたし、床に伏せてしまう。不調は何らかの呪いであると判断した資産家により、世界中から様々なオカルティストたちが連日連夜招かれた。
資産家がついに命を落としたとき、バーゲストは偶然居合わせた日本の呪術師に引き取られることになる。バーゲストの不運はここに極まった。呪術師がバーゲストを引き取った理由とは、彼が用いる呪術の触媒にするためだったのだ。バーゲストは首から下を地中に埋められ、13日間放置された。
次いで、飢えたバーゲストのちょうど牙が届かない距離に、脂の滴る肉が置かれる。空腹が限界に達したバーゲストは鼻先を突き出し、ついには自身の力で首を引きちぎってしまう。土地の霊性と怨念を帯びたバーゲストは、首だけとなっても生き続け、人間を飢餓に陥れては呪い殺す、最悪の呪物と成り果てた。
バーゲストの呪いは、対象が体内に蓄えているたんぱく質の量に比例して強力になる。犠牲者が肥えていればいるほど、多くの被害を生むだろう。対処法は、バーゲストの性格と呪いの特性によって確立されている。バーゲストは孤独に飢える者には呪いをかけないという信条を持ち、その制約を固く守っている。バーゲストと遭遇し生還した数少ない者は、いずれも栄養失調状態にあり、20歳未満で天涯孤独の子どもであった。また一宿一飯の恩義を重んじる気質があり、彼に純粋な気持ちで食料を分け与えた者は、その生涯を終えるまで彼の正体を知ることはないだろう。
冷川 莉生
あらゆる組織に紛れ込む変幻自在のスパイ。
古代に絶滅した爬虫類の越境者。
外見は30代前半の女性だが、推定3000歳を超えると見られ性別も不明。眼鏡をかけた端正な顔立ちで、常にオフィスカジュアルな服装に身を包む。
冷川はBremen Harmonixの主要構成員でありながら、事務員としてUNISON JAPAN内に潜伏している。表向きは亀陸と同様、窓口業務をこなす人当たりの良い事務員であるが、密かに書類の改ざんや架空の融人の登録、データの横流し等の工作を行っている。戦闘時には未知の技術で生み出された電子機器を駆使し、肉体の強度は人間と変わらないが高い戦闘力を発揮する。女性的な身体的特徴を有するため便宜上『彼女』と呼称するが、真の性別は不明である。
冷川という人格は、彼女の一面に過ぎない。彼女はその特異な能力により、容姿・体格・性的特徴の全てを変化させることができるからだ。冷川は肉体を変化させることが可能な爬虫類の希少種である。古代メソポタミアの時代には既に融人化しており、エリドゥ(現在のイラク南西部)で人間と共に暮らしていた。ある日、彼女は神を自称する男に出会う。一見してただの人間にしか見えなかったが、その男が披露した技術や知識は、人類が現代より数千年後に到達するはずの領域であった。神を自称する男を崇拝するようになった彼女は、彼の指示に従い、後の人類史に登場する多くの偉人の側で暗躍するようになる。現代の冷川が使用するオーバーテクノロジーは、男から譲渡された技術である。男が彼女に出した指示は完全に秘匿されており、その全容を知る者はいない。
Bremen Harmonixに所属してからは、カシャと昔話や宇宙談義で盛り上がっている姿が見られ、構成員たちからは古い知人であると推察されている。
偶然会話に巻き込まれたバーゲストは「なに言ってるか全くわからん」と零している。
冷川としてUNISON JAPANに勤務しているときの彼女は、融人保護官への協力を惜しまない有能な事務員である。人間として振舞っている彼女から得られる情報やサポートの内容は、亀陸から得られるものと変わらない。冷川は他の構成員と違い、人類への悪感情は持ち合わせていない。彼女の行動は全て、神を名乗る男の目標を達成するためにあるからだ。冷川と利害が一致する限り、彼女から重要な情報を得られる可能性がある。それでもなお、彼女を全面的に信用するべきでないだろう。冷川がBremen Harmonixに属している以上、神を名乗る男の目的は、人類根絶の過程に沿うものかもしれないからだ。
アペヤキ
全てを焼き払う炎の化身。
人類根絶を望むアカエゾゼミの越境者。
外見年齢は20代後半だが、実年齢は不詳の男性。燃え上がるように逆立った赤髪が特徴であり、非常に目立つ容貌をしながらも、街中でその姿が見かけられることは稀である。
アペヤキは、制御不能となった炎そのものである。彼と出会ったのであれば、その周囲は必ず炎に包まれている。炎を呼び起こす力を持っており、土地、物体、空間において、一度でもその場所に炎が存在した過去があれば、アペヤキの意志にかかわらず、その炎は再現される。
再現は一度のみであり、呼び起こされた炎が消火された場合、再び能力によって呼び起こされることはない。炎の中を自在かつ瞬間的に移動する能力も有しており、アペヤキの捕捉は困難を極める。
アペヤキの周囲には常に炎があった。
燃え盛る家屋の中に産み落とされたアペヤキは、卵から孵ると焼け跡の土に潜った。不思議とその地では火事が多く、灼熱の土中で幼虫期を過ごす。成虫となるため土中から這い出すと、外には木の一本も生えていない焼野原が広がっていた。アペヤキは仕方なく地面で羽化を迎えることにする。抜け殻から這い出てきたのは、成虫ではなく人間の子どもだった。この時、人の姿となったことにアペヤキが驚くことはなかった。「火の中でセミが育つものか」と考えていたアペヤキは、納得の方が強かったのだ。自分はセミではなかったのだと、彼は即座に受け入れた。
アペヤキの絶望は、融人となってから始まる。人里に到着したアペヤキは、住人に石を投げられ、追い回され、消防車で放水された。放水の威力は凄まじく、アペヤキは7日間も気絶してしまう。目を開くと、自身を攻撃した住人たちの村も、周囲の森も、山も焼け跡となっていた。
アペヤキは、これまでの人生を振り返ってようやく自身の力に気づく。成体となってから今まで歩いた道は、全て炭となっていた。
アペヤキは地球を歩き続ける。全ての火が再燃して、やっと彼は自由を手にするのだ。
彼も人類の根絶を望んでBremen Harmonixに所属している。人が生きている限り、新たな火が生まれるからだ。
アペヤキとの出会いは天災だと思うしかない。彼が近くに来てしまえば、あらゆるものが燃え上がる。アペヤキの行き先を予想することは難しい。彼はひたすらに火を蘇らせながら、あてもなくただ歩き続けているだけだ。アペヤキの炎から逃れたければ、彼の足跡を追うのが良いだろう。彼が通った後であれば、少なくとも彼の炎で焼け死ぬことはない。アペヤキを討伐したいのなら、彼に故郷を燃やされた復讐者と手を組むのが良いだろう。復讐者は粗暴で扱いづらいかもしれないが、交渉次第では道行きを共にすることができるかもしれない。
大鼓屋はタヌキの越境者が経営する温泉旅館チェーンである。本館は新潟の佐渡にあり、全国に別館を持つ。
タヌキの越境者が営む温泉旅館チェーン。郊外の廃屋などを安く買い取っては、越境者の能力を使って美しい旅館に見せかけている。
宿泊のたびに部屋の内装が変わると口コミで評判になっているが、不思議とメディアでは一切取り上げられない。どの旅館にも「狐の入館お断り」の文言が記された看板が立っており、大鼓屋に訪れた旅行客が来館記念に写真撮影する名所となっている。
大鼓屋の従業員のほとんどがタヌキの越境者や亜獣である。中には亜獣化していないタヌキや、信楽焼の付喪なども働いているようだ。
大旦那
大鼓屋の創業者にして幻術を操るタヌキの越境者。
外見年齢は80を超す老人のようだが、実年齢は不詳の男性。身長190cmを超える巨体で、非常に恰幅が良い。顔のほとんどを灰色がかった髭で覆われており、客からは「タヌキ妖怪の頭目のようだ」と笑われている。大旦那の正体は佐渡島の化け狸『団三郎狸』である。
その昔、佐渡には、幻術を自在に操る団三郎という少年がいた。団三郎は大変ないたずらものであったが、困窮する者には金を貸し、金堀りを手伝うこともあり、島民に可愛がられていた。
越後国では同じく幻術を操る青年、宵之介なるキツネの越境者が幅を利かせていた。宵之介は団三郎を目障りに思い、襲撃しようと画策する。配下の狐を向かわせるが、その度に団三郎に追い返され、業を煮やした宵之介は、ついに自身で乗り込むことを決意した。宵之介は旅の僧を捕まえて「佐渡へ向かう船に乗せろ」と頼み込む。僧は「渡し賃が無いなら拙僧の草履に化けろ」と言った。船が沖に出るや否や、僧は突然草履を脱いで投げ捨ててしまう。この旅の僧というのは、当然団三郎である。草履はすぐに変化を解いたが、宵之介はそのまま溺れてしまう。見かねた団三郎は宵之介を引き上げてやり、越後へ追い返したのであった。
本土に戻った宵之介が「佐渡には恐ろしい化け狸がいる」と語り継いだため、佐渡へ渡る者はみるみる減った。責任を感じた団三郎は、人をもてなす幻術を磨き、佐渡に豪奢な宿の幻影を見せて、客を招くようになったという。
団三郎は江戸の後期には隠居し、実務は息子に引き継いでいるが、今もなお深い知性と威厳を持っている。団三郎は政界にも顔が広く、大鼓屋の本館は政治家の接待や密談などに利用されている。大鼓屋の利益の多くは、動物保護のNPO法人やUNISONに寄付されている。
若旦那
大鼓屋の現主人にしてタヌキの越境者。頼りない外見とは裏腹に、優れた経営手腕を持つ。
外見年齢は40代前半だが、実年齢は不詳の男性。黒髪短髪に茶色の着流し姿がトレードマーク。痩せぎすの長身で頼りない印象を与える。
大鼓屋の二代目で、経営を一手に担う。経営者としての手腕に優れ、大鼓屋を全国展開させたのは彼の功績である。幻術よりも経営力に長けており、時代に合わせた柔軟な経営方針をとる。
従業員は「軟弱で頼りない」と評する年配と「穏やかで優秀」と評する若年に二分されている。
「人を喜ばせる技を学べ」と、幼少期からもてなしの精神を大旦那に叩き込まれる。「事業拡大には先人の知見が必要である」と考えた若旦那は、各地の豪商の屋敷に潜入しノウハウを蓄えた。特に参考となったのは、さる呉服店の暖簾分け制度と、とある浪人の資金調達方法だ。当時多くの商家の経営方針は主の一存で決まり、事業拡大は主の手に収まる規模が限界だった。しかしその呉服店は、番頭に屋号を貸して店舗を持たせることで事業を無制限に拡大しようとしていたのだ。
またとある浪人は商売を始めるにあたり、巧みに交渉して複数の出資者から資金を集めた。これは株式制度に近いもので、画期的な資金調達法だった。これらの知識を得て大鼓屋を継いだ若旦那は、幻術を駆使して名を売り、幕府お抱えの旅館となる。
明治に『二岩 弥彦』と名を改めた若旦那は、大鼓屋を株式会社化し、財閥となった呉服店を大株主に迎え現代に至る。
大鼓屋は日本の旅館系列で最大軒数を誇るが、視覚的な問題のほとんどを幻術でカバーし、内装に掛かるコストを抑えている。最低限の安全性は担保されているが、新館の大鼓屋には誰も知らない部屋や、残置物らしき奇妙な置物などが見つかることがある。過去には死体が置かれた暗い部屋や、髪の毛が大量に入った鏡台が見つかるなどの事件があったとオカルトマニアの間で噂になっている。
坊ちゃん
若旦那の一人息子にして、タヌキの越境者。
大鼓屋の跡継ぎ候補だが、家業を継ぐことに反発している中学生。
肩口まで無造作に伸びた黒髪ストレートヘアの、外見年齢、実年齢共に10代前半の少年。最寄りの中学の制服姿でいることが多く、常に不満そうな表情をしている。本名は『二岩 弘彦』。
大鼓屋の現代表である若旦那の一人息子。大手旅館チェーンの跡継ぎとして、何不自由ない生活をしているが、決められたレールの上を歩くことを退屈に感じ反発している。父である若旦那は、定期的に食卓で説得を試みては失敗しているが、従業員には放っておけば大丈夫だろうと思われている。佐渡の住人にも可愛がられており、『坊ちゃん』と呼ばれて親しまれている。
弘彦が家業を嫌がるのには彼なりの理由がある。幼少のころ、佐渡の野山で遊んでいて迷子になった弘彦は山中の神社に迷い込む。日が暮れ始め、嘆いていたところに見慣れない制服の女子高生が現れた。女子高生は弘彦が迷子だと聞くと、さして深い山中でも無いのにと笑っていたが、麓まで親切に案内してくれた。帰りの山道で、その女子高生は『葛ノ葉 朱音』といい、本土の高校に通う一年生で、放課後はいつも神社の近くにいると聞く。弘彦は朱音と交流を続け、幼心ながら次第に心を惹かれていった。ある日、世話になっている女子高生がいることを母に話すと、菓子折りを持って行かされる。始めは恐縮しながらも喜んでいた朱音は、紙袋の外装に印字された大鼓屋の文字を見ると表情を曇らせてしまう。朱音はその理由を明かすことなく、神社に現れなくなってしまった。後に弘彦は朱音の家がタヌキたちによって疎外されていた化け狐の一家であったことを知る。以来、弘彦は佐渡のタヌキを軽蔑するようになってしまったのだ。
葛ノ葉の家を教えてもらえなかった弘彦が葛ノ葉の生家をつきとめたとき、すでに朱音は本土で一人暮らしを始めており、会うことが叶わなかった。弘彦は今も朱音を探しており、いずれは融人保護官になって本土に行くことを夢見ている。朱音の捜索に協力したり、弘彦が憧れるような融人保護官であれば、大鼓屋の優待券をこっそり横流しして貰えるかもしれない。
百鬼夜暁は、南関東を中心に活動する暴走族だ。
メンバー全員が付喪であり、かつて伝説の不良と称された少年『物部 将臣』の遺品で構成されている。
一般的に、付喪は社会性に乏しい個体が多いとされているが、百鬼夜曉の構成員は非常に人間臭く、感情表現が豊かである。
彼らは一般的な暴走族のように、マフラーを改造して排気音を大きくし、集団で走行するなどの行為はしない。キャノンボールスタイル(スピード重視)を基本としており、停車や信号待ちをせず、できるだけノンストップで走り抜ける。公道を200Km/hで走行する彼らが人身事故を起こすのは時間の問題だろう。
湘南地方の海岸沿いにある公園を無断で集会所として使用している。
主要メンバーの4人はUNISONに融人登録されているが、あまりにも素行が悪いことから、登録証の失効宣告を受けているようだ。
生前、愚連隊『夜叉連合』を率いて、神奈川県の荒くれものを束ね、不良の頂点に君臨した少年。
喧嘩では無敗を誇り、最強と恐れられながらも、多くの仲間に慕われる求心力を持っていた。
天涯孤独であることから仲間や私物を失うことを極端に恐れており、仲間の危機を知れば警察や暴力団すら敵に回し、果ては海外まで救援に行くことすらあったそうだ。
物部は、壊れたバイクや使い古した学ランを最後まで直して使うなど、決して物を粗末にしない。彼の私物たちは、九十九年の愛着に匹敵するほど大切にされていた。
天下 無双
伝説の不良が愛用していた改造自転車の付喪。百鬼夜曉の総長であり、神奈川県で有数の進学校に通う優等生でもある。
高校に通う真面目そうな学ラン姿と、“走り屋”の世界で着る特攻服姿の二つを使い分ける、外見年齢、実年齢共に10代後半の男性。
昼は進学校の生徒会長を務め、国立医学部を進路の候補に入れるほど猛勉強している。登校時はレンズの分厚い丸眼鏡をかけているが、視力は両目とも2.0であるため特に意味はない。夜は、近隣に知らぬものなしの“不良”として、関東中の“族”から一目置かれている。仲間内の人望は“最高”に厚い。“愛車”はカワサキ Z400FX。
天下は、児童養護施設で育った物部が、中学入学時に園長からプレゼントされた“愛車”であり、彼にとって最も思い入れの深い物だ。物持ちの良い物部は、修理を繰り返しながら6年間乗り続けた。ある日、物部は誰にも目的地を告げずにどこかに向かう際、“不運”と”踊”ってしまう。この時、物部が乗っていたのが天下であった。限界が来ていた“愛車”に乗り続けていたことで脱輪し、公道に放り出された物部は、4tトラックと激突してしまう。事故の直後に融人化した天下は、通報の方法が分からず、物部の体温が失われていくのを見ていることしかできなかった。
救急車で遺体が運ばれるのを見届けた天下は、呆然自失の体で物部の家に戻り、物部の私物たちが融人化するまでの9日間、飲まず食わずで“吸い殻”のように部屋に佇んでいた。
物部の私物たちと共に『百鬼夜曉』を結成した天下は、亡き持ち主に代わり神奈川を〆るために抗争に明け暮れている。
天下に用があるなら、昼間の学校へ会いに行くと良い。周囲に一般の生徒がいれば、穏やかに会話をすることができるだろう。夜の天下に会うことは難しい。集会所に向かっても、百鬼夜曉のメンバーに追い返されるか、最悪の場合は“タイマン”になるかもしれない。天下には、神奈川の統一以外にもう一つ目的があるようだ。夜道で天下に絡まれた不運な数名の会社員は、「指輪知らねェか?」と尋ねられたと証言している。
唯我 独尊
伝説の不良の愛車であった『カワサキZ1』の付喪。百鬼夜曉の副総長であり、チームの良心的存在。
荒々しい雰囲気を持つ、赤いインナーカラーが入った茶髪の巨漢。外見は30代後半に見えるが、老け顔なだけで肉体年齢は10代後半である。
百鬼夜曉きっての温厚派で包容力があり、仲間から“父親”のように慕われている。暴力団との交渉や、抗争後の調停役も熟しており、百鬼夜曉の屋台骨のような存在だ。抗争となれば一騎当千の力を振るい、有象無象の“族”であれば、単騎で壊滅させるほどの戦闘力を備えている。自身がカワサキ・Z1であるのに加え、“愛車”もカワサキ・Z1。
生前の物部は、唯我と共にスピードの向こう側を見た。唯我の原種であるカワサキZ1の元々の持ち主は、『夜叉連合』の先代総長であり、先代が少年院入りしたことをきっかけに、総長の座と共に物部へ譲渡された。未改造でも200km/hを超える速度が出るカワサキ・Z1は、ベテランの交機でも追いつくことが困難であり、その排気音は、“警察”対『夜叉連合』の“開戦の合図”だと近隣住民に囁かれていたそうだ。
物部の手に渡ってからも、唯我は最速の座を守り続け、夜の神奈川に排気音を轟かせていた。
唯我は『百鬼夜曉』結成の立役者でもある。物部の死後一カ月もの間、自失して抜け殻になっていた天下を見かねた唯我は、天下を無理やり外に連れ出し、逸脱を覚悟して自身の背に乗せて夜の街を走る。この時、天下に前を向かせるために咄嗟にした提案が、百鬼夜曉の創設だった。この夜、二人が交わした言葉は誰も知らない。彼らの会話を聞き取ることができるのは、スピードの向こう側に住む者だけだ。
唯我は、物部を乗せていた頃の記憶の空白に悩んでいる。それは、物部の後ろに乗る誰かの記憶で、その誰かに会わなくてはならない気がするそうだ。唯我は、常に特攻服で過ごしているため、街にいるときはとても目立つ。唯我の探し人に心当たりがある者は、教えてやると良い。それが確かな情報であれば、『百鬼夜曉』総勢500人が情報提供者の後ろ立てとなるだろう。
百戦 錬磨
伝説の不良が幼少期に鍛錬で使用していた木刀の付喪。百鬼夜曉の特攻隊長であり、チーム内で最も戦闘力に長けている。
逆立った灰色の髪に白い鉢巻きを巻いている、外見年齢10代前半、実年齢10代後半の小柄な少年。常に口元を黒いマスクで覆っているが、マスクの下に傷はないし、無口でもない。外したところを見た者も普通にいる。
“族”一の膂力と敏捷性、気高い武士道精神を備えており、抗争の際は最前線で戦う百鬼夜曉の武神。棒に足を掛けて宙吊りでいることが多く、仲間からは格好も相まって“忍者”の修行だと思われているが、実際は身長が低いのが悩みで、迷信を信じて足を延ばそうとしているだけだ。
古くは武具の管理を行う一族であった物部家では、幼少のころより武芸を叩き込まれる。百戦は、物部が鍛錬で使用していた木刀であった。しかし、喧嘩はもっぱら“素手喧嘩”で戦うことから、百戦は長らく箪笥の奥にしまわれていた。
物部の没後、融人化した百戦は放心状態で抜け殻になった天下を守るため、彼を連れ去ろうとするUNISONの職員や融人保護官との闘いの日々を送る。鴇沢に制圧依頼が出されてから、鶴守に説き伏せられるまでの30日間、百戦はたった一人で天下を守り抜いた。その後、諸々の事情を考慮され彼は登録融人となる。現在は鴇沢に師事して戦闘技術を教わっている。
百戦は弱者に興味が無い。百戦の協力を得たい場合は、それなりの戦闘力を披露する必要があるだろう。日中は、鎌倉駅前の和菓子屋で売り子をしており、そこではパートの主婦に可愛がられている姿を見ることができるだろう。この様子を指して挑発すれば、百戦の注意を引くことができるかもしれない。もちろんこの手段は、高い戦闘力を備えた百戦と即戦闘になることを覚悟して用いるべきだ。
不撓 不屈
伝説の不良が着ていた特攻服の付喪。百鬼夜曉の参謀であり、チーム内で最も頭がキレる。
雑に染めた金髪をした、外見年齢・実年齢共に10代後半の軽薄そうな少年。私服は流行の服を着こなしており、不良感は見られない。
百鬼夜曉の裁縫担当であり、メンバー全員の特攻服を仕立てているのは彼である。軍略に長け、大規模な抗争時には、不撓の頭脳が“族”を勝利に導いてきた。主要メンバーの中では戦闘力が低いが、仲間内では最も短気で、誰よりも早く手が出る。
不撓は、伝説の不良が着ていた特攻服の付喪である。喧嘩が絶えない物部の特攻服は、いつもボロボロであったが、しばらくすると新品同様に仕立て直されていた。物持ちが良く、常に金欠だった物部が、特攻服を新調しているとは考え難い。
誰かが修繕しているはずなのだが、物部は不器用で裁縫技術があるはずもなく、実家から勘当されていることから、母親の仕業でもない。真相が明かされる前に当人が他界してしまったことで、物部の特攻服は謎に包まれたままであった。
修繕されていた当人である不撓は、この真相を知っている。百鬼夜曉のメンバーが、“神奈川統一”以外の目的で動くのは、この真相に関連があるようだ。死亡直前の物部の行動。定期的に修繕されていた特攻服。天下の探し物。これらを繋ぎ合わせれば、彼らの目的が見えてくるかもしれない。
炊屋 姫子
伝説の不良の元恋人。現在は行方知れず。
黒髪ストレートの艶やかなロングヘアを持つ10代後半の女性。落ち着いた服装を好み、やや古風な印象を受ける。
物部将臣の元恋人であり、百鬼夜曉がチーム総出で行方を追っている女性。現状、百鬼夜曉のメンバーが彼女について把握しているのは名前と容姿だけであり、その他の情報は一切判明していない。神奈川全域にアンテナを持つ彼らが全く行方を掴めないということは、県外に住む人物なのかもしれない。裁縫が得意だということも大きなヒントになるだろう。都内の服飾系大学などをあたってみると良い情報が得られるかもしれない。