世界観
ここでは、ルールブックとは別に『ガイアケアTRPG』の世界観を説明していく。
『ガイアケアTRPG』についてより深く知りたい場合は参考となるだろう。
まずは融人について紹介しよう。
融人 / Harmonia
人間社会に融け込んだもの。人間社会と調和したもの。
ここでは、ルールブックとは別に『ガイアケアTRPG』の世界観を説明していく。
『ガイアケアTRPG』についてより深く知りたい場合は参考となるだろう。
まずは融人について紹介しよう。
人間社会に融け込んだもの。人間社会と調和したもの。
動植物、人工物や無機物、あるいは超常的な存在が完全な人間の姿かたちに変貌したもの。
一般人が彼らの存在に気づくことは難しい。
融人の多くは人間として生きていくことを望み、人間社会に融け込んでいるためだ。
近年、融人をめぐるトラブルが様々な形で表出し、人類はついに融人の存在を認知した。
融人が人間に変貌する前の姿を原種と呼ぶ。
融人は原種によって以下の3種に分類される。
以上の3種を総称し、人の姿に変貌した人ならざるものは融人/Harmoniaと呼ぶ。
原種が明らかになっている融人のうち、最も多いのは亜獣で、これは全融人の大半を占めている。
付喪は亜獣に比べ数が少なく、越境者に至っては非常に珍しい存在であると言えるだろう。
融人が生まれる過程や原因について、現在わかっていることはほとんどない。
融人となった時期や場所、要因と思しきエピソードは各個体において様々であり、全ての個体に共通する一定の法則性すら見いだせていないのが現状である。
融人研究の第一人者であるスウェーデンの生物学者ウルフ・ウィルヘルム・ソーンは、2010年に北京で開かれた北京フォーラム出席メンバーとの非公式会見で「融人の出現は、人類にとってある種の淘汰圧であると言えるかもしれない」という見解を示したが、それ以降、融人の由来については一切の言及を避けている。
融人は人間の姿から原種の姿へ任意に変貌することができる。肉体の一部だけを変化させることも可能だ。例えば聴覚を高めるために耳を原種の姿に変貌させるなどだ。いずれの場合も一日に数回の使用なら再び人間の姿へと戻ることができる。
どのような仕組みでこの変貌が行われるのかについて、各国の医療機関や研究機関により、様々な調査が行われたが、現在までに判明していることは多くない。
現在判明していることのひとつは、融人が人間の姿のときには人間の肉体との差違はないということだ。任意に原種の姿に変貌できること以外、人間と融人は肉体的には同じである。
前述の通り、融人は原種の特徴を心身に残している。これは常人より優れた能力として発現するが、それは肉体が人間より優れているからではない。
人間の姿である限り、彼らの能力が人間の範囲を超えることはない。
融人は原種の肉体の記憶を残しており、人間の肉体を人間とは異なる方法で使いこなしているのだ。例えばイヌの亜獣は嗅覚で周囲の状況を見分ける方法を知っており、そのため人間の姿でも常人より優れた嗅覚を発揮できる。ウグイスの亜獣は声帯の制御に長けており、歌声で人を魅了することができる。こうした特徴は彼らの職業選択などに大きな影響を与えるだろう。
融人は原種の特徴を心身に残しており、それらは常人より優れた能力として備わっている。TIPSゲーム上は融化がそれにあたる。
イヌの亜獣は嗅覚に優れ、ウグイスの亜獣は歌を通して多くの人の注目を集める。
石の付喪は頑健であり、コンピューターの付喪は演算能力に長けているだろう。
これらの能力は人間が持ちうる力からそれほど離れていない。あくまでも長所の範囲に収まり、原種の素質を人間の肉体で応用したにすぎない。
原種の特徴をどの程度人間社会で利用するかは、それぞれの個体によって大きく異なる。
自身が融人であると明かし、その能力を公然と行使している者もいれば、慎重にその出自や特徴を隠している者もいる。
いずれにせよ、融人たちは各々の能力を活かしながら、うまく人間社会に融け込み暮らしている。
融人が
人間の能力を超えて「原種」の特徴を使用
TIPS
ゲーム上は〈オリジン〉がそれにあたる。
したいのなら、人間としての姿を一時的に手放さなくてはならない。
例えばワシの亜獣が空を飛ぶためには背中に翼を生やさなくてはならず、テッポウエビの亜獣が衝撃波を発生させるためには手を巨大な鋏に変形させる必要がある。
これらの肉体の変貌を伴う能力は、一日に数回使用する程度であれば再び人間の姿に戻ることが可能だ。
しかし 変貌に伴う原種の力の浸食は少しずつ進行していく。 TIPS ゲーム上は共鳴レベルの上昇で表される。 力の行使などにより 浸食が閾値を超えてしまった場合、 TIPS ゲーム上は【逸脱】で表される。 融人は完全に原種の姿へと戻り、人の姿であった頃の意識や記憶も失われてしまう。
ごくわずかな事例として、原種の力に浸食された後もヒトと原種がいびつに入り交じった異形の姿のまま生きながらえる者も確認されている。
この場合、人間としても原種としても人間社会で暮らしていくことは非常に難しいだろう。
そのような姿になってしまった融人は往々にして奇異の目に晒され、ひどい差別を受ける。異形と化した融人たちは、一生を人目につかない場所で過ごすか、融人への偏見が少ない特定の地域で暮らすか、あるいは反社会的な融人組織に保護を求めるかなどの選択を迫られるかもしれない。
ルールブックの「融人共鳴者の【逸脱】によるロスト」には、"逸脱した融人は原種の姿に戻り、人としての意識や記憶を失い、融人化する以前の状態になる。"と書かれている。
しかし、これは逸脱した状態の融人を敵として登場させたり、シナリオで創作された
特別なロスト方法
TIPS
例えば、記憶を失わずに原種に戻るなど。
を否定するものではない。
ここに例示したような形や、あるいは別の方法で、逸脱した融人をシナリオに登場させてもよいだろう。
オオカミの亜獣の場合、オオカミの姿から人間の姿へ任意に変貌することができる。肉体の一部だけを変化した獣人の姿になることも可能であり、これはコウモリの亜獣も同様だ。
では、伝説に残る狼男やヴァンパイアは亜獣なのだろうか。彼らの区分は、変身能力と原種が持っている能力以外の特殊能力の有無によって分けられることになる。
例えば、以下のような特殊能力がある場合は越境者と分類する。
融人が命を落とすと、その瞬間に肉体を変貌させる能力を失い、死亡した時の姿がそのまま遺される。
死期を悟った融人の中には、最後の力を振り絞り、人間の姿に変貌してから静かに息を引き取る者もいれば、逆に原種の姿を選び、本来の姿で人知れず終わりを迎える者もいる。
どのような姿で亡くなるかは、その融人がどのように生き、何を大切にしてきたかを雄弁に物語るだろう。
人の姿に変貌した動植物、亜獣について紹介する。彼らは融人の中で最も数が多く、しかし多様性に満ちている。
亜獣は原種の生物的特徴を有している。
原種の本能に根ざす行動は融人となった後も引き継がれることが多いようだ。
例えば、原種が群れを作る社会的な動物の場合、亜獣となり人間社会で暮らす場合も集団に属することを選択する者が多い。
渡りをする動物を原種に持つ亜獣は人間社会で暮らしてもよりよい環境を求め移動する傾向が見られる。
これらの傾向はよく知られているため、亜獣の性格も原種を想起させるものになると広く認知されている。
例えば、イヌの亜獣は忠義に篤く、ネコの亜獣は気まぐれなどというものだ。
だが、これらにはあてはまらない事例が数多く確認されており、実際は融人となる以前の個体の性質や育った環境などに依存している。
亜獣が人間社会で暮らす上ではその出自が大きく影響している。
人に飼われていたペットが亜獣になるというケースは都市部でよく見られる。
そういった個体は人間社会へ融け込むためのサポートを受けやすく、人間社会に慣れているため、対人関係でも苦労することは少ないようだ。
逆に、山奥に棲む野生動物が亜獣となった場合、人里に降りてくる可能性はあまり高くない。
人の姿となった後も群れに混じって暮らし続け、人間社会と関わることなくひっそりと生涯を終えることもあるだろう。
彼らの中でたまたま人間と遭遇したものが、野人や山童などと呼ばれ民話や伝説に語られているのかもしれない。
亜獣化した際の外見年齢は、個体の実年齢ではなく「 原種の寿命を人間の寿命に換算したもの TIPS 原種の成長段階に合わせた外見年齢になる。寿命の異なる生物でも成長段階に合わせた人間の外見年齢になるようだ。 」になるケースが多い。
例えば、生後1年のネコの亜獣と生後40年のニシオンデンザメTIPS寿命が400年を超えるとみられているサメ。の亜獣は共に中学生として学業に励んでいるが、生後3年のオオカミの亜獣は民間警備会社で中間管理職を務めている。
もっとも、これにはいくつかの例外が確認されており、実際の年齢は本人すら把握していない場合もあるだろう。
亜獣が人間の姿で暮らしていく場合、人間と同じように歳をとり、人間と同じように寿命を迎えることになる。
亜獣は、融人の中で最も多様性に富んだ生活を送っているようだ。
彼らは「人間に友好的な者」と「人間に敵対的な者」に大きく二分される。
人間に友好的な亜獣の多くは上手く社会に融け込み暮らしている。
各々の特徴や能力を活かして暮らす亜獣たちは、融人だと明かさない限り、人間とさして変わるところはない。
しかし、人間に友好的であっても、原種の特徴や性質によって社会性に乏しい亜獣もいる。
孤独を好み協調性を持たない原種であれば、人間と暮らすことは難しいだろう。
そうした者は人里離れた土地で密やかに暮らすことが多い。
一方で、同じような性質の者が寄り集まり独自の小規模な共同体を築く場合もある。
夜行性の動物を原種に持つ亜獣たちが集まるコミュニティも存在するようだ。
人間に敵対的な亜獣には、害獣や害虫として原種の頃から爪弾きにされていた者、原種の特性が人間社会と相容れない者などがいる。
ネズミやマダニなど都市生活に害をもたらしてきた生物を原種とする亜獣は人間と敵対関係に陥りやすい。
またスズメバチやワニなど強い攻撃性を持つ原種も人間との共存は困難である。
こうした原種を持つ場合、亜獣化して早々に何らかの事件を起こすことが多い。
事件を起こした亜獣は、各国の警察機関や軍隊、融人保護官などに捕獲、あるいは討伐されてしまうだろう。
融人となった後に人間による差別などを目にして敵対する者もいる。
敵対的な亜獣の中でもひときわ知能が高い者や、原種が社会を構築する動物である場合には、単独行動を避けて仲間を集め、犯罪組織を結成する場合がある。
統制された亜獣の組織が社会に牙をむいたとき、人間にとって大きな脅威となるだろう。
亜獣の能力は、同じ原種でも個体によって大きく異なる。イエネコの亜獣の場合、一方は跳躍力や身体の柔軟性に優れ、一方は聴覚や嗅覚などの感覚能力に優れるといった個性が見られる。
亜獣が行使できる能力のほとんどは、原種が持つ能力を大きく超えることはない。タカの亜獣がジェット機のようなスピードで飛ぶことは不可能であり、カエンタケの亜獣が口から火を吹いたりはしない。
原種と人間の身体構造の違いからくる制約も存在する。大型の生物が原種の場合、人間の肉体が力を発揮する枷となる。クマの亜獣が人間の大きさのまま力を振るえば肉体が耐えられない。逆に小型の原種では重量の問題が生じる。ノミは体長の150倍ほどの高さを跳べるが、人間に近い肉体でその脚力を使っても、数百メートル跳び上がることはできず、仮に跳べても着地の衝撃に耐えられない。
原種の力を完全に発揮させるためには、身体の大部分を原種の姿に変貌させる必要があるだろう。
融人が原種の能力を行使すると、力の浸食により少しずつ原種の特徴が色濃くなっていく。
イヌの亜獣であれば顔や身体に体毛が生え、鼻先が伸び、鋭い牙が現れるだろう。コウモリの亜獣であれば指の間に被膜が現れ、徐々に指が長くなっていくかもしれない。
大木の亜獣が強く原種の力の浸食を受けた際、足が太い根に変わり、その場に釘付けになることがある。一時的に移動能力を損なう代わりに、仲間を守る強固な壁となるだろう。
これらの変貌は人の姿に戻る際には解消される。しかし、短期間に何度も変貌を繰り返すと人間の姿に戻れなくなる危険がある。
その場合、人と原種の特徴が入り交じった異形の姿になってしまう。
UNISONによる分類では"動植物が原種の融人は亜獣"となっている。しかし融人の原種は多様であり、生物と無生物の境界にはあいまいな領域が存在する。
例えばウイルスは生物学的には無生物に分類されているため、本来であれば付喪として登録されることになる。しかし、あるウイルスの融人が登録に訪れた際に「自分は生物なので亜獣に分類して欲しい」と申請する事例があった。この出来事を契機として、UNISONでは境界があいまいな存在については融人本人の自己認識に基づいて分類するという方針が採用されることになった。
一方、ナマズの亜獣は音や振動に敏感で、地震の到来を誰よりも早く察知することができる。当然これは生物的な能力に起因するものであり、原種の能力を大きく超えたものではない。しかし、それまで単なるナマズの亜獣と思われていたある融人が完全に無音、無振動の環境で地震を予知する能力を示したため、この個体は越境者に再分類された。
このように原種の生物的特性では説明のつかない超常的な能力を発揮した場合は、本人の希望に関わらず、社会の安全性を優先し越境者への再分類が行われる。
亜獣の多くは人間社会に融け込み、能力を隠しながら過ごしているが、中にはその能力を善行・悪行問わず積極的に使用している者もいる。
とあるウグイスの亜獣は、正体不明の歌手としてインターネット上で強い支持を集めている。短距離選手として名を馳せていたとある選手が五輪を出場停止になったのは、彼がチーターの亜獣であることが発覚したためだ。
人工物、あるいは無生物……つまり「物」の融人である付喪について紹介する。彼らは亜獣と比べ数が少なく、その特性は非常にユニークだ。
付喪は原種の機能的特徴、または成分や構造などを想起させる能力を持っている。
亜獣と同様に、大多数の付喪の能力も人間の能力の範囲での長所に収まるが、原種である道具や物質の機能に特化した専門的な才能として現れることが多い。
例えば2010年に製造された電波時計の付喪は、正確に時間を計測する能力を有し、2020年に製造された家庭用コンピュータの付喪が披露した計算能力は常人離れしていた。
また、「1900年代にアメリカ大統領が隕石の付喪と非公式対談を行い、太陽系外の赤色矮星に関する情報提供を受けていた」ことが判明している。このように、人類の知りうる範囲を超えた知識を有していたケースが確認されている。
付喪という名称は、日本の伝承にある付喪神を元としているが、あくまでも概念の近い名称をあてがわれただけに過ぎない。日本における付喪神の伝承では『長年使われた道具に霊が宿る』『捨てられた物に宿った古い歳神が妖怪化する』などとされるが、実際の付喪には共通した特徴は見られない。例えば、現在までに確認されている付喪の原種として、長らく倉庫に仕舞いこまれていた置時計、中年男性の私室に並べられた美少女型フィギュア、非行少年の所有する中古のバイク、山などが挙げられ、新しいか古いか、大事にされていたか、道具かどうかといった共通点は見られない。
なお、付喪神に代表される"物に霊性が宿り動き出す"という概念は日本特有のものではなく、ピュグマリオンの彫像やゴーレムなど、数こそ多くないものの様々な神話・伝承が各地に残っている。このため一部の研究者は「これらも付喪だったのではないか」と主張しているようだ。
付喪の大部分は人工物を原種に持つ。
人工物を原種に持つ場合、人間との関わりが深いからか、積極的に人間社会に融け込もうとするものが多い。
しかし、融人化したばかりの付喪は人間の心の機微を理解できず、周囲とトラブルになるケースが多いようだ。
皮肉や婉曲表現を理解しない、背景文化を理解できない、比喩表現や慣用句をそのままの意味で受け取ってしまう、といったコミュニケーションエラーが数多く報告されている。
例えば、書面で取り交わされていない依頼を全て拒否したり、上司から「同僚によく釘を刺しておけ」と言われた付喪が傷害事件を起こしたケースもある。
ほとんどの付喪は社会の中で自身の役割を果たそうとする。人間社会での生活が長くなれば、集団の文化を理解し、徐々に違和感は消えていく。
特に服飾品など人間が身につける物を原種に持つ付喪は、社会性が高く、人間社会になじみやすい。
そのような付喪の場合、会話や仕草などから正体を見抜くことは非常に困難だろう。
なお、一部の付喪は頑なに人間社会への態度を変えない。彼らは人間の社会規範や道徳を「非合理な決まりごと」とみなしており、従うことを拒否するのだ。こうした付喪はしばしば孤立し、犯罪や反社会的活動に巻き込まれることもある。
また、原種の性質がそのまま価値観として現れる場合もある。例えば武器を原種とする付喪は攻撃や戦闘を自分の存在価値と考え、戦いに身を投じる者が多い。
一方、岩石や鉱物、氷塊などの自然物を原種とする付喪の場合、人間との直接的な関わりが薄いため、人間社会への理解や適応に時間を要する傾向がある。融人化した後も長い間人里から離れた場所で過ごす者も珍しくない。
こうした自然物由来の付喪の中には人間社会への興味を示さず、原種であった頃の環境に近い場所で静かに暮らし続ける者も多い。彼らは必要最小限の人間との接触しか持たず、登山者や研究者との偶然の出会いが彼らと関わる唯一の機会となることもある。
ただし、一度人間社会に馴染んだ自然物由来の付喪は、長期的な視点で物事を捉える能力に長け、建設業や地質調査、気象観測などの分野で活躍する者もいる。
付喪が行使する能力は非生物が原種であることに由来しており、多くの場合は生物には備わっていない能力として発現する。
例えば目から強い光線を放つ男が出没したと言う一見荒唐無稽な事件は、調査の結果、レーザーポインターの付喪だったと判明している。このように目的を持って作られた道具を原種とする付喪は、その道具の機能を示す、ある意味わかりやすくシンプルな能力を持っている例が多い。
対して、自然物など本来は機能を持たないものを原種とする付喪は、能力の発現に顕著な個性が見られる。氷塊の付喪を例に取ると、体表の温度を氷点下まで下げる者もいれば、ツララのように尖った氷を作り出し口から射出する者もいる。これらの違いは、原種であった頃の環境や、融人化してからの性向・価値観が深く関与していると考えられている。
こうした原種由来の能力の発揮には、人間の姿から原種の姿への変貌が不可欠である。全身を変貌させる場合もあれば、指先や口など必要な部位だけを原種の姿に変貌させる場合もある。
部分的な変貌で能力を行使する場合、人間の肉体の部分が負荷に耐えきれず深刻な損傷を負う事例も少なくない。銃器の付喪が指先を変化させて弾丸を発射し、同時に指の骨を砕いてしまった例や、火炎放射器の付喪が自らの足元を焼き重度の火傷を負った例などが報告されている。これらは特に融人となって日が浅く、人間の肉体の扱いに不慣れな付喪に見られるようだ。
人工物、特に道具を原種とする付喪は、しばしば映画やドラマ、マンガといった創作物のキャラクターを想起させる姿に変貌することがある。
例えばハサミの付喪が両腕を巨大なハサミに変貌させた姿や、ドリルの付喪が頭部をドリルに変貌させた姿はフィクションに登場する怪人や怪物を強く思わせる。
こういった姿に変貌するのは彼らが道具として人間と生活を共にし、人間の文化の影響を強く受けていることの傍証となっている。
一方、岩や鉱石などの自然物が付喪となった場合、体表や全身が原種そのものの姿へ変貌するといった、より単純で素朴な変貌を遂げる傾向が強い。
付喪はその能力の特異性から、しばしば越境者と間違われる。霊的な力を持つとされる巨岩などの自然物や、呪物として扱われる人形や鏡などの人工物が越境者となることもあり、これらと付喪とを見分けることは困難である。
実際に藁人形の融人が人形の付喪として登録されたが、後の殺人事件の調査で被害者がこの融人の呪いの力で殺されたことが判明し、越境者として再分類された。
この事件は分類のミスにより発生したものとされ、以降、亜獣と比べて付喪の登録審査は慎重に行われる傾向が見られるようになった。こうした分類の困難さの一因として、付喪の原種が多様であることが挙げられる。
誤解されやすいが付喪の原種は無機物に限らない。藁人形のような"有機物で作られた人工物"も含まれる。
また、例え生物由来であっても命を失って物となった後に融人化した場合は付喪に分類される。
倒木はその典型例だ。生きた樹木が融人化した場合は亜獣として分類されるが、枯れて倒れた木が融人化した場合は倒木の付喪として扱われる。同様に生物が姿を変えて物になった後に融人化した場合も付喪として扱われる。
興味深い事例として、イチゴが融人化した場合はイチゴの亜獣となるが、イチゴショートケーキが融人化した場合はイチゴショートケーキの付喪として分類される。その能力もイチゴ単体というよりは、ケーキとしての側面が強く表出するようだ。この差異が生まれる原因ははっきりしておらず、研究者の多くは「当人の自己認識が主因であると思われる」とコメントするに留まっている。
まだ類似の事例が公的に観測された記録はないが、「地球のような天体そのものが融人化したとき、それは亜獣であるか付喪であるか」という議論が好事家たちのコミュニティでよくなされている。この議論はひいては「生命とは何か」という哲学的な問いにまで発展しており、融人の存在が人類の根本的な概念に与える影響の大きさを物語っている。
一般的に付喪は他の融人よりも人間社会に融け込もうとする積極性が見られる。
社会への奉仕的な考えを持ち、能力を自ら開示する個体が多いようだ。
とある化粧道具の付喪は、融人化してすぐに自らの原種や能力を明かし、スタイリストとしての雇用を望んだ。現在は専門的な能力を活かして芸能事務所や美容サロンでその能力をいかんなく発揮している。
高機能電卓の付喪は、融人化してすぐに競技プログラミング大会に参加し優勝した。自ら融人であること機能を明かし、受賞は取り消されたものの、運営事務局にスカウトされた。
このように人間社会と調和するのは、付喪の能力が"機能"に近く、社会での役割が分かりやすいためだろう。
超自然的な存在が人間の姿に変貌したもの、あるいは超常的な力を得た亜獣や付喪……それらの総称が越境者だ。特殊な力を振るう彼らは、しばしば事件やトラブルの原因となる。
越境者に一貫した特徴というものは見いだせない。いわば、分類不可能な融人――それが越境者と言えるだろう。
越境者の多くは他の融人と違い、原種の頃から超常的な能力を有している。
例えばキツネは音の方向や距離を正確に把握する能力に秀でている。キツネの亜獣が原種の力を解放し、その能力を使えば、獲物の位置をかなり正確に把握できるだろう。だが、これは超常的な能力ではなく、原種であるキツネの生物的特性によるものだ。
しかしある"キツネの越境者"は心を操る能力を持ち、洗脳や魅了で人心を惑わした。さらには遠隔地から人を殺すこともできたことが判明している。このような"原種が持っていない特殊な能力"を持つ融人が越境者である。
越境者であっても、肉体的な頑健さなどは原種の性質に大きく左右される。しかし、越境者は亜獣や付喪が持たない
超自然的な能力
TIPS
原種の動植物や、人工物や無機物に備わっていない不思議な力。
を有している。
このような能力を有した越境者は、伝承や民話などによりその存在を人間に認知されていることがある。
先の例に挙げたキツネの越境者は、政府要人などに取り入り暗躍し、時の為政者を操り人民に圧政を強いた『妲己』の名で歴史に残っている。
他にも、火を纏うネコの越境者は『火車』として奇異雑談集に記され、コウモリの越境者である『ヴァンパイア』は世界的に有名な怪物として名を知られている。
各地で語り継がれている天使や悪魔、精霊や神が実在したのなら、それらも何らかの越境者かもしれない。
越境者であっても人間の肉体に変貌している以上、基本的な頑健さや能力は人間の肉体の範疇に収まり、超常的な力を使うためには肉体を原種の姿に変貌させる必要がある。
だが、これには例外がある。優れた能力を持つ一部の越境者は人間の姿のまま、超常的な能力を行使できることが判明しているのだ。
彼らが何らかの方法で人間の肉体を強化しているのか、それとも人間以外の肉体を「人間に見える姿」に擬態しているのか、それはわからない。
しかし伝承や記録に残る逸話が真実の一端を示しているとすれば、どちらか一方に限られているとは考えにくい。むしろ越境者の能力の多様性を考えれば「人の肉体に変貌し、それを強化出来る者」と「人に見えるだけの怪物」の両方が存在すると考える方が自然だろう。
越境者の多くは原種の段階で長寿や不老であり、また人語を解している。そのため人間社会に対する理解は他の融人に比べ、格段に深い傾向にある。
その深い理解は人間との共存や協調に活かされる場合もあるが、同時に人間を欺き利用し支配することも可能にしてしまう。
この特性はそのまま彼らの潜在的な危険性を表していると言えるだろう。
実際に越境者が人間社会に害をなした場合、他の融人と比べて影響範囲が広く深刻な事件となる傾向が見られる。
原種の頃から人間に敵対的な個体は、融人化により更に脅威的な存在になったと言えるだろう。人間の姿を得たことで外見からは判別できなくなり、その結果として社会に融け込み、より容易に暗躍できるようになったのである。
妲己や玉藻前のように、政府中枢に入り込み人間に害をなしたものや、迷信深い土地では今なお恐れられている人狼、あるいは信仰心の篤い人間のもとを訪れては堕落した悦びで誘惑する黒犬の越境者など、その例は枚挙に暇がない。
しかし、越境者の全てが人間に敵対的というわけではない。
友好的な越境者の多くは、その正体を完全に秘匿しながら人間社会に融け込んでいる。
とある牛の越境者は、予知能力を用いて未来に起きる戦争や災害などの危機を人々に伝え続けている。現代では拡散力のあるインターネットを利用する場合が多いようだが、あまり信用されていないのが悩みのようだ。
また例外的に、その特異な能力と正体を明かして人間社会に大きな影響を与えている越境者も存在するようだ。
日本の政府中枢には、通信インフラが途絶えた際の伝令と緊急時の避難誘導を担う、強力な探知能力と通信能力を有するカラスの越境者たちが在籍しているとされる。
古代エジプトでは変形能力を有する石灰岩の越境者が王家の墓守を務めたが、盗賊や侵略者との度重なる戦闘の末に石像となってしまったという伝承が残されている。
越境者が行使する力の多くは、通常の物理法則を無視した超常的な力である。可燃物がない場所へ火を起こしたり、揚力を得ずに宙に浮かんだり、あるいは遠隔地から人を操ったりなど、その力の種類には限りがない。
妖怪や妖精など、人間の間でもよく知られた存在が原種となっている越境者は、能力の多くが民話や伝説の形で残っている。とあるカエルの越境者は口から催眠性の奇妙なガスを吐き出し、人を自在に操ることがあるが、これは大蝦蟇という妖怪の能力として伝承に語られているものだ。
もちろん、融人として人間社会に暮らしている以上、他の融人と同様に力の行使には制約やリスクが伴うだろう。
しかし、強大な力を持ち人間の姿のままで能力を使える者や、人間として生きることへの執着がない者であれば、制約など意に介さず超常の力を振るってくることもあるだろう。その危険性は計り知れず、UNISONは常にそのような越境者の存在を警戒している。
他の融人と同様、越境者が原種の能力を行使する時には、肉体の一部あるいは全身を原種の姿へと変貌させる必要がある。特に強大な力を振るおうとするならば全身が原種に近づき、その特徴が顕わになりやすい。
しかし、多くの越境者は自らの原種を特定されることを嫌い、その姿をさらしたがらない。
伝承にはしばしば特徴や天敵が語られており、弱点を知られる危険があるからだ。
このため、鵺やキメラなど複数の動物の特徴を持つ越境者の場合、行使する力によって様々な変貌を見せることがある。とある融人が顔をライオンに変貌させて噛みついてきたとしても、「これはライオンの亜獣に違いない」と断定するべきではない。その正体はライオンの顔に五本のヤギの足を持つ、恐ろしい悪魔かもしれないのだから。
越境者とその他の融人との違いは、「超常的な力を持っているか否か」である。融人の原種が完全にネコの見た目であったとしても、そのネコが人の言葉を理解し、自在に雨を降らせる力を持っていたならば亜獣と分類されない。外見や出自ではなく、その能力によってのみ彼らは越境者と呼ばれるのだ。
越境者の多くは自らの能力を隠し、UNISONの職員に対して胸襟を開くことはない。利便性を求めて融人登録する場合も、無害な亜獣や付喪のふりをして窓口に立つことが多い。職員から能力の行使を求められても、亜獣や付喪にも可能な範囲の行動しかとらないだろう。UNISONは人間社会に敵対的な越境者を強く警戒しているが、彼らを検知する手段は未だに確立されていない。
ごく稀にではあるが、自らの原種を明かして越境者として登録される個体も存在する。彼らは人間と長く暮らした化け猫であったり、山神と呼ばれる存在であったり、あるいは弱々しい力しか持たない小さな妖怪であったりする。このような個体はUNISONの協力者となり、融人保護官のパートナーとなるか、あるいはUNISONの監視のもと平穏に暮らすなど、それぞれの形で人間社会に身を置いている。